十二紀に伝わるお話

イルヴァ十ニ紀に伝わっている、神話やおとぎ話です。


癒しの三姉妹

姉妹月ラクリナの破壊により、イルヴァに大量の流星群が降り注ぐ中、愛の神であり、
ジュアの前身である女神オディナは、神々の所業に心を痛め、自らの命を捧げ
イルヴァを壊滅から守りました。
これが切欠となり、オディナの使徒である防衛者たちを中心に立ち上がった神々のしもべらは、
自らの主に反旗を翻します。
戦いの後、悲しみの癒えぬオディナの妹エリスは姉の亡骸を抱き、
防衛者と共に自らの次元に引き篭りました。
懸命にオディナの蘇生を試みるエリスでしたが、悉く失敗に終わり、やがて自らも命を絶ちます。

以後二紀に渡り、防衛者が二人の魂の墓守をする事となりました。

闘争の時代、イルヴァを負の神々から守る為、再びオディナは目覚めましたが、
彼女の記憶は失われていました。
傍に立つしもべより、「姉のオディナがイルヴァと貴女の命を救った」と聞かされた彼女は、
妹エリスの絶望と自死を知ることは無く、記憶の復活も起こらないまま、
癒しの神ジュアとして永い時を過ごす事となります。

巨木の下の子猫

クミロミ神が、まだ神となる前のお話です。
宇宙を漂っていた、胞子木野子の容を取るかれは、生命の息吹に導かれイルヴァへ不時着すると、
大地に根を張り、長い時間をかけて大木へと成長しました。

調和の時代のおわり、闘争の時代にさしかかろうとしていたころ、
代々一族に幸運をもたらすとされる七匹目の猫の神王の仔、そして将来の王猫・女王猫として、
猫の神の妻猫のおなかに生を受けたエヘ。
それを妬んだ猫の神の六匹目の仔フヘトトルは、こともあろうに母女王猫に毒を盛りました。

誕生したエヘは奇形として生まれ、凶兆とされる黒い毛並みとなってしまいます。
その不幸な出産は母猫の命をも奪ってしまったため、生後まもないエヘは
「凶運のエヘ」と蔑まれ地上に捨てられてしまい、策謀の成功したフヘトトルは、
次代猫の女王神に座しました。

地上を彷徨い続ける捨て子猫神エヘ。定命ではないので死ぬことはありませんでしたが、
奇形の体を維持する事は、大変に困難なことでした。
人の子と遊ぼうとしても、すぐに内蔵などが飛び出してしまい、みな怖がって逃げてしまいます。
どこへ行っても、不吉で醜悪な猫として嫌われてしまいました。


疲れ果て、しょんぼりと肩を落として迷い込んだ森のなか、大木の前で、
悲しみに泣き濡った体をちいさくして休んでいると、とても美しく優しそうな少年が近づいてきました。
少年はそっと躊躇なく、驚いている彼女を抱きかかえましたが、
エヘは醜態を晒して嫌われるのが怖くて逃げ出そうとします。
しかし少年は、しっかりと彼女を抱きかかえ、なかなか離してくれません。
案の定、子猫は少年の腕の中で体の中身をぶちまけてしまいました。
また嫌われてしまう、とエヘは少年を見上げましたが、驚いたことに、かれの方は
温かい笑顔を浮かべ、まったく気にしてない様子です。
安堵と疲労のせいか気が遠くなり、久々に熟睡してしまうエヘ。
目が覚めると、少年は既にいなくなっていました。

それから、この大木はエヘのお気にいりの場所となり、少年と遊ぶために何度も何度も訪れました。
エヘが成長して少しは力を発揮できるようになり、かれに気に入られたくて少女に変形してみたり、
失敗してまた体の中身を零してしまったり。そうして、優しい時間が流れていったのです。

やがて闘争の時代に入り、平和だった周囲の森が焼失するなど、
不幸な出来事が立て続けに起こるようになりました。
不吉を呼び込んだのは自分のせいだと思い悩んだエヘは、自分の生い立ちをかれに告白します。
それを聞いた少年は「この大木を争いから守っているのは、君の幸運の力だ」と、
エヘカトルに優しく語り掛けました。
かれは、自分の正体が、この大木「クミロミ」であることを明かし、エヘに
「幸運のエヘカトル」という名前を与えます。
このとき、クミロミとエヘカトルとは、神聖な交信と聯繋で結ばれました。

その後、エヘカトルは次第に神としての力を取り戻していきます。クミロミと力を合わせ、
闘争の時代において、唯一人間や動物が平安な暮らしを送ることができる聖域を作り上げました。

かみさまになったおとこのはなし

神さまの弟子はとても頭がよく、きれいな姿をしていましたが、とてもとてもわがままで、
まわりのみんなをばかにしていました。

あるじの神さまの事もばかにしていたので、自分がかわりの神さまになりたいと考えたでしは、
自分を好きになった女神さまをだまして、わるだくみをたくさん助けてもらいました。
そして、ついに神さまになれるきかいがおとずれたとき、でしは女神さまをうらぎってふみだいにし、
あるじを倒して神さまとなったのでした。

大鷹の国生み

それは、サウスティリスの東に位置する島が、ザナンと呼ばれる前のお話です。

ある日、大地の神オパートスは、島の真ん中にそびえる高い山の上から、
塞いだ両眼を東の海原アセリア海へ向けていました。
そこへ一羽の大鷹が近づいて来ると、微かに響く潮騒に耳をすませるオパートスの頭上で
ゆるりと旋回しながら彼に話しかけました。
「ごきげん麗しゅう、オパートス様。今日も健やかな風に恵まれておりますね」
「ごきげんよう、風の子よ。汝の翼に女神の加護があらんことを」
大地の神の気さくな応対に気を良くした大鷹は、常々ふしぎに思っていた事を訊ねてみました。
「ところで、神様というのは皆、空を飛べるものと聞いております。
 けれど、私は今までオパートス様が空を飛んでいる所を目にした事がありません。
 オパートス様も、空を飛ぶことはあるのでしょうか?」
オパートスは大鷹の問いにフハハーンと返すと、巌のごとき両腕を空高く掲げました。
神の身体は見る見るうちに目の前の大鷹の姿を形取り、翼を一撃ち二撃ちする毎に、
空へ空へと昇って行きます。やがて、大鷹よりも高く舞い上がったオパートスは、
悠々と大海原へ飛んでいきました。

驚いたのは地上の山々です。なにしろ大地の神がいる場所こそが地上なのですから、
とにもかくにも後を追わねばなりません。
平地は丘に。丘は山に。山は連なる峰々に。大地はうねり、島はどんどん姿を変えていきます。
下の騒ぎに気づいたオパートスが慌てて地上に舞い降りると、島の東側は鹿角の様に迫り出し、
山脈は島の南北を隔てる程に大きく隆起していました。
それ以後、オパートスはなるべく空を飛ぶのを控えるようになったと伝えられています。


  • 最終更新:2014-02-08 18:01:47

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